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平凡な日常の中で思うこと


by hammsamm
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序章

帰途に就く列車に揺られてドアにもたれていた

腰掛けて読書をしていた初老の男性が
目の前の女性に気づいて慌てて立ちあがり声をかける

「 あっ、どうぞどうぞ 」

見るとおなかの大きいな女性である
いまどきのおっさんにはめずらしい気づかいである
女性は首と手をぶんぶん横にふって固辞していたが
立ちあがった男性も今更あとには引けない
戸惑うように、あきらめるように、女性は腰を下ろした

一連のやりとりを見守っていた乗客に微妙な空気が流れだした

このおなか大きな女性は
単におなか大きな女性なのではなかろうか

すべての部位に平等に大量の肉がついている
微妙だ、非常に判断が難しい
せっかくの親切な紳士がデリカシーのないゲス野郎に陥りかねない

突然
静寂を破るけたたましい笑い声が響いた
ぎょっとして振り向くと
私のすぐ隣で金髪おかっぱ野郎が、野郎だけど女性が、ケタケタと笑っている
笑い声はなかなか鳴りやまない
空気はどんどん重苦しくねじれていく

妊婦若しくは妊婦もどきは
おもむろに鞄の中からパンダちゃん柄のスーパーボールを取り出して
とうとう目の前の床でバウンドさせ始めてしまった

ひとしきり笑い転げた金髪おかっぱ野郎は
連れの男にしきりに訴えかけている

「 目がこんなに腫れちゃって医者行った方がいいよね 」
「 放射能にやられた 」
「 放射能にやられた 」
「 放射能にやれれた 」

何度も同じことをとても楽しそうな笑顔で語りかけ
再びけたたましく笑い始めた



列車はつつがなく走り続ける
私たちを乗せてどこまでも
by hammsamm | 2011-04-06 14:46